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ここから始まる物語

第22章 最後の戦い

「そこがおかしいんだよ」
 相手は、クリシーの顔に向かって、太い人差し指を突きつけました。
「自分たちの力で生きていく、その意思の結晶が神なんだとしたら、俺たちは神に頼ってはいけないってことになるだろ。祈った瞬間に、俺たちの決意は崩れ去ることになる。だから俺たちは自分たちの力でこの国を、俺たち自身を守らなくちゃならないんだ。違うかい」
「それは――」
 クリシーは言い返すことができませんでした。相手の言う通りだったからです。
 言葉に詰まっていると、肩を軽く、二度叩かれました。
「問答に付き合う暇はない。俺は戦いに行くぜ。命を捨てる覚悟なんざ、とっくに出来てら」
 そして相手は立ち去ってしまったのでした。
 クリシーは一気に悩みの渦に巻き込まれてしまいました。
 こんな時に頼ることが出来ないのならば、神はなんのためにいるのでしょうか。もちろん魔法使いを封じるのが、神と呼ばれる存在のいちばんの目的ですが、国が滅びるかどうかという、この最大の危機に無力だということが、クリシーには受け入れられなかったのです。
 それは神に対する失望ではなく、神に使えてきたこれまでの人生に対する虚無感でした。
「私は、いったいなんのために僧侶になったのだろう。僧侶の役割は、これほどまでに虚しいものでしかないのだろうか」
 クリシーは演説をやめ、行くあてもなくその場を後にしたのでした。

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