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第5章 対決

 ピスティはよほど邪魔してやりたくなりましたが、卑怯な真似をして勝っても嬉しくありません。黙ってフォビスが矢を放つのを見守りました。
 さっと風が吹きました。
 その風がおさまると同時に、フォビスの構えていた矢が唸りをあげました。
 矢は風をきって的へ向かっていき、タンッと小気味のいい音を立て的に突き刺さりました。
 僧侶が、急いで的に駆け寄っていきます。
 フォビスの放った一本目の矢は、いったい何点の場所を射抜いたのでしょうか。
 ピスティは息を飲んで、僧侶の判定を待ちました。
 見物人も、声をあげずに僧侶の言葉を待っています。
 やがて、僧侶が叫びました。
「百点!」
 その瞬間、見物人はどっと湧きあがりました。フォビスを讃える言葉と口笛が響き渡ります。
 フォビスは、見物人に応えるかのように一礼すると、ピスティを見てにんまりと笑うのでした。
 ピスティの胸の中に、悔しさが湧いてきます。
 こうなってははずせません。的をはずすことはもちろん、五十点の場所を射抜くことも許されません。
 百点の場所を射抜いて、はじめて同点に持ち込めます。
「では、次。ピスティ様」
 僧侶に促されて、今度はピスティが弓を構えました。
 野遊びで使っている、手に馴染んだ弓です。
 それに矢をつがえて、ぎりぎりと引き絞ります。
 見物人は、今度も静かに矢の行方を見守っています。
 矢羽根を持つ手を目の横に当て、左手で鏑を的に向けます。
 力を込めた腕が微かに震えて、うまく的を狙うことができません。
 一度息を吸って、ゆっくり吐きました。
 気分が落ち着くと、自然と震えも止まりました。
 一瞬、すべての音がなくなりました。
 ピスティは矢を放ちました。

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