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第22章 最後の戦い

【逆転】

 アビナモスは、すでにテントから逃げ出していました。
 手薄になっていた本陣に、敵が襲いかかってきたのです。アビナモスの許にはほとんど兵士が残っていなかったので、戦うことなどできませんでした。
 フォビスが戻ってきてしばらく戦っていたようですが、そのフォビスも倒されてしまい、残されたわずかな兵士も、浮き足立ってまともには戦えない様子です。
 ここは逃げるしかありません。幸い、まわりは森です。テントから出れば、逃げることも隠れることも思いのままです。
「コーリー」
 テントから出る直前に、アビナモスは、アウィーコートから逃げてきたという美女の名を呼びました。
「はい」
 コーリーの瞳は涙に濡れています。
「もしも俺についてくれば、エカタバガンで幸せに暮らさせてやる。どんな服も、どんな宝石も思いのままに手に入れてやる」
「アビナモスさま。私はアウィーコートから逃げることが出来たら、それでいいのです。服も宝石も要りません」
 その目に浮いた涙は、悩ましげな光をたたえています。同時に、桃色に染まった頬からは、なまめかしい香りが漂っています。
 アビナモスは息を飲みました。
「我慢することないんだぞ」
「我慢などしてはいません。私は、アビナモスさまとともに・・・・・・」
「ともに、なんだ」
 アビナモスが問いかけましたが、コーリーは恥じらうように目を背けるばかりです。
 コーリーの気持ちは、アビナモスに傾いているのでしょうか。「ともに」の後が聞けないのではかり知れませんが、少なくとも嫌われてはいないようです。
「とにかく、今はここを出よう。敵が活気づいていている。このテントは、もう危険だ」

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