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第5章 対決

 森がざわめいたのです。
 風は吹いていないので、草木の揺れるとは予想もしていませんでした。
 その音に注意を削がれてしまったのでしょう。フォビスは、矢を放つと同時に、ちっと舌打ちをしました。
 まっすぐに飛んでいった矢は、的には当たりましたが、真ん中からはややはずれていました。
 僧侶が的に駆け寄って、点数を大声で伝えました。
「五十点!」
 それでも、見物人はやはり喚声をあげました。普段から訓練を積んでいない人びとから見れば、的に矢を当てるだけでも難しいことなのです。
 しかし、フォビスは納得していないようでした。音に惑わされたとはいえ、狙いが外れてしまったことが悔しいのでしょう。いつもは余裕たっぷりな表情を浮かべている顔に、今は険しさが滲んでいます。
 その表情を見て、ピスティはやや気持ちが晴れましたが、それでも油断はできません。
 今のところ、兄は百点で、ピスティは五十点。点数でいえば、まだピスティが負けているのです。
 ピスティは、今度こそ百点を射抜いてやると意気込んで、二本目の矢を弓につがえました。
 ぎりぎりと弓を引き絞り、狙いを定めます。
 あたりは静けさを取り戻しています。
 が、森の中から枝葉の擦れるような音はまだ聞こえていました。風が吹いていないにもかかわらず、です。
 きっと動物でもいるのでしょう。これほど人里近くにまで降りてくることはないので、珍しいことではあります。でも、すでにその音はさっき聞いたので、ピスティは気を取られずにすみました。
 息を吸って、止めます。
 そして狙いを定め、矢を放ちました。

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