テキストサイズ

ここから始まる物語

第22章 最後の戦い

 自分だけならともかく、仲間や兵士や庶民の命までかかっているとなれば、うかつなことはできません。
 ピスティは、アビナモスの喉元に突きつけていた剣を下ろしました。そしてライにも、
「離してやってくれ」
 と頼みました。
 ライは、悔しそうに唇をひん曲げながらも、アビナモスの襟首から手を離しました。
 自由を取り戻したアビナモスは、ピスティに向かってにやりと笑いました。
「形勢逆転――だな」
 そして悠々とした足取りで森から出ると、配下の兵士たちの中へ姿を消していきました。
 あと少しでアビナモスを――敵の将軍を倒すことができたのに――そうすれば、この戦いに勝つこともできたのに――そう思うと、悔しくてなりません。
 圧倒的な数の敵を前にして、ピスティは指一本さえ動かすことができませんでした。
 これからどうすればいいのでしょう。
 このまま森の中にいるわけにはいきません。ですが、敵が押し寄せている中へ出ていくこともできません。
 進退窮まっていると、敵の軍隊の中から、アビナモスの声が聞こえてきました。

「アウィーコートの兵士、および庶民諸君に告ぐ。もしもピスティ王を我々に差し出せば、全員の命を助けてやろう。さもなくば、このまま皆殺しだ。さあ、どうする」

 ピスティはどきりとしました。
 今の一言で、まわりにいるみんなが、ざわめき始めたのです。今この瞬間、ピスティの命は、仲間たちの返事ひとつでどうにでもなってしまうのです。
「まさか、みんな裏切ったりなんかしないわよね!」
 レナが叫びます。
「誰が裏切っても、おらだけはピスティさまをお守りするだよ」
 ライは全員に向けて、というよりも、ピスティひとりに、その優しい笑顔を向けました。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ