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ここから始まる物語

第5章 対決

 矢を持つ手で汗をぬぐってしまったため、手が滑ってしまったのです。
 それで、狙いを定める前に、うっかりと手を離してしまったのです。
 フォビスからは、今までさんざん馬鹿にされてきました。この機会に、ピスティは思いっきり嘲笑ってやろうと思いましたが、やはりそれはできませんでした。
 兄だから尊敬しなくてはいけない、などという理由ではありません。
 ピスティがフォビスを嘲笑うことができなかったのは、まだ油断できないからでした。
 ピスティがまだ百点しかとっていないのに対して、フォビスは百五十点。
 ピスティが逆転するためには、百点を取らなくてはなりません。五十点なら引き分け。的からはずしたら敗北になってしまいます。
 ピスティは、最後に残された一本の矢を握りました。
 この矢をはずすわけにはいきません。
 ピスティは深呼吸をしてから、弓に矢をつがえました。
 ――絶対に百点を射抜いてやる!
 そう意気込んで、でも冷静さを保ちながら、ピスティは弓を引き絞りました。
 的に狙いを定めてから、もう一度深呼吸。
 そして、まさに矢から手を離そうとした、その瞬間のことでした。

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