テキストサイズ

ここから始まる物語

第5章 対決

 また、森がざわめきました。
 でも、さっきのような、おとなしい音ではありません。枝が折れ、草が踏みつけられる、乱暴な音です。
 ただごとでないことは、すぐにわかりました。
 音の方へ目をやると――。
 いきなり、森がやぶれました。
 まるで、大砲の弾が飛び出すかのように、木々の枝と葉っぱと草を飛び散らせて、黒い塊が森を突き破ってあらわれたのです。
 あまりに激しい音と気配に、ピスティだけではなく、フォビスも僧侶も、そして見物人たちも、全員がその黒い塊に目をくれました。
「狼だッ!」
 見物人のひとりが叫びました。
 その通りでした。森から飛び出してきた黒い塊は、狼でした。それも普通の狼ではありません。人の二倍ほどはある、巨大な狼です。
 狼が飛び出してきたのは、見物人たちが集まっているすぐ近くの森からでした。
 それまで的当ての結果にやんやと騒ぎ立てていた見物人は、一瞬にして恐怖と混乱に陥りました。慌てて、どよめいて、他人を乗り越え、あるいは踏み潰され、我先にと逃げ惑います。
 見ている間にも、何人かの見物人が狼の爪に裂かれ、牙に砕かれて大怪我を負いました。
 そんなありさまを、ピスティは見過ごせませんでした。
 たった今、的に向かって放とうとしていた矢の鏑を、狼に向けて狙いを定めます。
 当然ですが、狼は的と違って動きまわります。しかし、普段から遊びで狩りをしているピスティにとっては、飛び跳ねる狼を射るのは容易いことでした。
 ピスティは、狼の動きを先読みして、狼そのものではなく、狼の動くだろう先へ向かって、一瞬早めに矢を放ちました。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ