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ここから始まる物語

第5章 対決

 矢は唸り声をあげながらまっすぐに飛んでいき、今にも子供に噛み付こうとしていた狼の脇腹を射抜きました。
 狼は、甲高い声をあげると、体勢を崩して、どうっと地面に倒れました。
 しかし、狼はまったく怯みません。むしろ、脇腹に矢を立てられたことに怒りを爆発させているようです。
 狼は、目をぎらぎらと光らせて、ピスティを睨んでいました。
 その間に、襲われそうになっていた子供は逃げ出すことができたようですが、だからといって安心はできません。
 狼の瞳は怒りに燃えています。また、すぐに暴れ出すことでしょう。そうすると、また怪我人が出てしまいます。
 でも、もう矢はありません。ピスティは咄嗟に剣を抜くと、狼に向かって突進していきました。
 走りながら、声の限りに雄叫びをあげます。
 ピスティの狙いは、狼を倒すことではありませんでした。本当の狙いは、狼の気を引くことです。
 その狙いどおり、狼は見物人には目もくれず、一目散にピスティに向かって走ってきます。
 見物人たちは、その間に逃げ去っていきます。
 見物人たちが逃げる時間を、ピスティは稼ぐつもりでした。
 狼など、退治してしまえればそれに越したことはないのですが、こんなに大きな狼は、おいそれと倒すことはできません。
 なのでピスティは、声をあげながら、斬りかかると見せかけては退き、逃げるふりをしてはつっかかり、狼をわざと怒らせて、自分に向かってくるように仕向けます。
 幼い頃にいたずらをしてばかりいたピスティにとっては、それは容易いことであり、また楽しいことでもありました。
 しかし、です。

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