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第9章 アウィーコート大戦役

 エカタバガンの皇帝が、アウィーコート王国を攻めると決めた時、アビナモスはみずから、総大将を務めることを買って出たのでした。わけは、ほかでもありません。兵士たちの前で恥を晒す羽目になってしまったことへ、仕返しをしようと思ったのです。
 しかし、いざ守備門を壊してみるとどうでしょう。
 門の内側には軍隊などいなかったのです。それどころか、アウィーコートの第二王子を名乗る少年が、たった一人で立ちはだかっているだけです。この少年は言うまでもなくピスティです。
 ピスティの顔を、アビナモスは忘れていませんでした。ピスティに馬鹿にされて追っ手をかけたばかりに、罠にかかってさんざんに討ち破られたばかりか、アビナモスは首に剣を突きつけられたのです。ピスティの顔を忘れるわけがありません。
 その少年が目の前にいるのです。しかも、たった一人で。
 山でやられた時の悔しさが、胸の中にむくむくと膨れあがります。すぐにでも号令を出して街の中へ攻め込もうと思いましたが、ふと思いとどまったのでした。
 あきらかに変だからです。
 こちらが軍隊で攻め寄せているというのに、相手はたった一人。しかも王子だというのです。
 罠が張られていると考えて間違いないでしょう。
 それでも、このまま攻め込むべきでしょうか。それとも、引き返すべきでしょうか。
 悩んだ挙句、アビナモスは答えを出しました。
 罠が張られていると考えるなら、まずは斥候を放って様子を探らせればいいのです。

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