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第9章 アウィーコート大戦役

 これには、ピスティも驚きました。ピスティのいる場所では、敵と味方が入り乱れて戦っているのです。そんなところへ矢を見舞っては、ピスティたちはもちろんたまりませんが、エカタバガン軍の兵士だって死んでしまいます。
 それとも、アウィーコートを攻め滅ぼすためなら、味方が多少犠牲になってもかまわない、とでも思っているのでしょうか。だとしたら、相手の指揮官はとても冷酷な考えの持ち主ということです。
「なんて奴だ」
 ピスティは自分に降り注いでくる矢を、剣を振るって弾き飛ばしました。
 ひと通り、矢を避けたかと思うと、

「ぎゃッ」

 という声が聞こえてきました。
 戦場には、ほかにもたくさんの音や声が響き渡っているというのに、その声だけは、やけにはっきりとピスティの耳に届きました。振り返ると――。
 ライが腕から血を流しているではありませんか。
 武器にしていた梯子は地面に落ちていて。腕の傷口を、もう片方の手で抑えています。しかも、そんなライに向かって、敵の騎士たちが、何本もの槍の穂先を向けています。ライは今にも突き殺されてしまいそうです。
「ライっ」
 仲間の危機に、ピスティは叫びました。が、まわりには火だるまになった敵や足元のおぼつかない騎兵がたくさんいます。これではライの元へ駆けつけることができません。
 もっと力があれば――とピスティは思いました。が、そう思うと同時に、ピスティは思い出したのでした。
 すでに、腕の怪我が治っていることを・・・・・・。
 レナが傷を治してくれたことを、ピスティはすっかり忘れていたのでした。

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