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ここから始まる物語

第9章 アウィーコート大戦役

 思い出したからには、あとは戦い抜くのみです。
 ピスティは両腕を思う存分動かして、邪魔な敵を押しのけ、あるいは突き倒し、かかってくる敵がいれば剣で切りつけ、あっという間に、怪我をしたライの近くへたどり着きました。
 ピスティはライを背後にかばうと、敵の騎兵に向けて剣を構えました。敵は、急にピスティが現れたので驚いたようです。
 一瞬動きを止めました。その隙を、ピスティは見逃しませんでした。
 剣を繰り出して、正面の敵の顔を突き、左の敵の槍を叩き落とし、右の敵の首筋に剣を潜り込ませて、素早く剣を引きました。
 一瞬にして、三人を倒したのです。
 その素早い動きと確かな技に、きっと恐れをなしたのでしょう。ほかの敵はピスティに背中を向けて逃げ出していきました。
「大丈夫か、ライ」
 ピスティは、自分の服の袖を裂くと、素早くライの腕を縛って血を止めました。
「へへん、このくらい、大丈夫だだよ」
 ライは強がっていますが、額には脂汗が滲んでいます。
「無理するな」
 ピスティはライの腕を縛り終えると、ふたたび剣を握りました。
 怪我をしている味方はライだけではありませんでした。
 ピスティについてきた、五十人の兵士のほとんどが、傷を負ったり倒れたりしています。
 まさか敵が矢を使ってくるとは思わなかった、ピスティのせいです。これ以上、味方に無理をさせることはできません。
「みんな逃げろ! あとは僕に任せてくれ!」
 それでも、味方の兵士は逃げませんでした。ピスティの声が届いていないのでしょうか。逃げたくても逃げられないのでしょうか。もしくは、怪我をして、なお戦おうと思っているのでしょうか。
 いずれにしても、この戦場で勝利をおさめることはできません。

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