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ここから始まる物語

第10章 裏切り者

 彼らは知らないのです。この戦争が起きたそもそものきっかけが、ピスティの軽はずみな行動にあったことを・・・・・・。山賊を退治したことそのものが、戦争の引鉄(ひきがね)になってしまったことを・・・・・・。
 もちろん、戦争を起こすために山賊退治をしたわけではありません。ですが、その事情を話したところで、わかってはもらえないでしょう。わかってもらえたとしても――いや、わかってもらえた時こそ、許してはもらえないでしょう。
 ピスティはうなだれたまま、どうしていいのかわかりませんでした。
 困っていると、ゲンが耳元で囁きました。
「責任をお感じなのであれば、まずは王になることです。王になってあらためて民意を問うのです。そして、得られた民意からは決して逃げぬこと、それが今できる最善の方法でございますぞ」
 その言葉に、ピスティは頭から水をかけられたような気分になりました。
 とくに言葉の最後です。

 得られた民意からは決して逃げぬこと――。

 それはつまり、たとえ民衆から死刑を望まれても、それに従わなくてはならない、という厳しい意味が込められていることに気づいたのです。
 もちろん、死にたくなどありません。しかし、死刑にされるかもしれないことにも正面から向き合わなくては、自分の犯した罪は許されないのかもしれません。それほど大きなことを、ピスティはしてしまったのです。
「わかった。ゲンの言う通りだよ。まずは、僕が王になる」
 ピスティは、小声でゲンに決意を述べました。
「それでこそピスティさまじゃ」
 ゲンは皺だらけの顔に笑みをたたえました。
「そのためには、まず、裏切り者を退治せねばなりませぬ」

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