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ここから始まる物語

第10章 裏切り者

 どうせ答えてはもらえないだろうと諦めつつも、ピスティは訊いてみました。
 思った通り、ゲンも答えてはくれませんでした。が、ゲンは反対に、ピスティへ聞き返してきました。
「思い出してくだされ。ピスティさまがどうして戦う羽目になってしまったのか」
「それは――」
 自分のしでかした失敗を思い出すのは辛いことでしたが、向き合わないわけにはいきません。
「――僕が、誤ってアマヤイシンの軍に手を出してしまったからだよ」
「それは良いのです。先程も言いました通り、その責任は王になってから、国民に問えばすむのです。わしが言っておりますのは、勝ち目のない戦いをするよう命令された理由でございます」
「命令された理由は――」
 ピスティは、これまでのことをあらためて振り返ってみました。
 どうしてピスティは戦うことを決意したのでしょう。
 思い出すのに、それほど時間はかかりませんでした。
「父と兄が言っていたんだ。時間を稼げって」
「その通りでございます。では、なんのために時間を稼ぐ必要があったのでしょうな」
「僕が戦って時間を稼いでいる間に、アマヤイシンに援軍を出すように頼みに行くんだと、兄は言っていたけど・・・・・・」
「わしもそう思いますな。しかし、おかしいとは思いませぬか」
「おかしい? 何が?」
 ピスティは不意を突かれたような気持ちになって、とっさに訊き返しました。
「考えてみてくだされ。もしも時間を稼ぎたいと思うのなら、どうして兵士をたった百人しか出さなかったのでしょうか」
「それは、僕を戦いで死なせるために――」

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