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ここから始まる物語

第10章 裏切り者

「簡単な話でございます。王さまたちは――」
 自分たちが逃げるだけの時間を稼いだのでございます――とゲンは言いました。
「逃げる?」
「そう。王さまたちは、この国を捨てて逃げようとしていたのです。つまり裏切り者とは――」
 ――まさか。
 嫌な予感が胸に広がります。
「こちらの牢をご覧くだされ」
 ゲンは、先にある牢へ手を差し伸べました。
 ピスティの位置からでは、まだその牢に誰がいるのかわかりません。でも、だいたい想像することはできました。
 そこにいるのは、ピスティが憎い憎いと思っていた、あの――。
「なんじゃと?」
 ひと足先に牢の前へたどり着いたゲンが、素っ頓狂な声をあげました。首を前へ突き出して、目を丸くしています。
 どうしたというのでしょう。
 ピスティは小走りで牢の前へ行って、その中を除きました。
 牢の中には――。
 誰もいませんでした。
 空っぽです。
「なんで誰もいねえんだ」
 驚きの声をあげたのはライでした。
 その声を聞きつけたのか、牢番の兵士が駆けつけてきました。
「どうされましたか」
「ここにいた者はどうした」
 ゲンが尋ねます。
「ピスティさまのお赦しがあるからと聞いたので、釈放しましたが・・・・・・」
「僕の赦しだって?」
 ピスティには、何かを赦した覚えはありません。それどころか、ここに「裏切り者」が閉じ込められていたことも知りません。さらにいうなら、「裏切り者」がいたことさえも知らなかったのです。
「誰がそんなことを申したのだ」
 ゲンの声は厳しさを帯びています。
「王さまがそう仰っていました」
「裏切り者の言葉を信じるかッ!」

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