テキストサイズ

ここから始まる物語

第10章 裏切り者

 いつも通りの門なら、ここから大声を出して門番に命令すれば、出ていく者を足止めすることができたでしょう。でも、今は門がありません。門番も、今はいないようです。そのまわりに住んでいた人々も、まだ帰ってきてはいないようです。ですので、裏切り者を捕らえるためには、こちらが追いついて取り押さえるしかありません。
 もし門を出てしまったら、エカタバガン帝国に逃げ込まれてしまいます。勝手によその領土へ足を踏み入れるわけには行きませんから、何としても追いつかなくてはいけません。
 が、裏切り者との距離は圧倒的です。とても追いつけそうにはありません。
 裏切り者たちはわざと貧しい身なりをしていますが、その正体が兄と父であることは、すでにピスティにも分かっています。
 今までからかわれてきたことへの悔しさ、無理やり抑え込まれてきたことへの怒り、怨み憎しみ悲しみ――いろんな感情が、ピスティの胸を駆け巡ります。
 ここで捕まえなくては、それらの気持ちを晴らすことはできないでしょう。
 しかし、いくらなんでも距離がありすぎます。いくら走っても手は届きそうにありません。フウの足でさえも、間に合わないほどです。
 ――追いつくんだ!
 ピスティは強く思いました。歯を噛み締め、走る足にいっそう力を込めます。
 ――追いついてやる!
 息が乱れて目の前がちかちかします。
 ――追いつけないかもしれない。
 気持ちが弱くなります。
 ――追いついてくれ!
 意識が途絶えそうになります。
 父と兄は、もうすぐ門をくぐり抜けそうです。もう駄目か、と思った矢先のことでした。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ