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ここから始まる物語

第10章 裏切り者

「この裏切り者どもめ」
 ゲンの声には、憎しみが滲んでいました。
「この国を捨ててエカタバガンに逃げようとしていたことは、とっくに見破っておったわ」
「なんだって?」
 国を捨てて逃げるだけでも許せないのに、その逃げ先が、エカタバガン帝国だとするならば、許せない気持ちはいっそうです。
 ピスティの胸に湧いていた憎しみの気持ちが、むらむらと膨れあがります。
「貴様という奴は・・・・・・」
 走り疲れて動くこともできないはずなのに、自然に腕があがって、気づけばフォビスの胸ぐらを掴みあげていました。
「この裏切り者がッ! 卑怯者がッ! 頭をさげて僕に謝れ!」
 喉が避けるほどに、ピスティは叫びました。鼻から息が溢れ、頬が震えます。その剣幕に圧されたのでしょうか。フォビスはいつにない怯えた表情を見せています。しかし、
「うるさいよ」
 いつもの余裕たっぷりな態度を取り戻すと、ピスティの腕を振り払いました。
「おまえは自分の立場を弁(わきま)えるべきだよ」
「立場だとッ!」
「この国の王は私だ。王たる私に、おまえは逆らうのかい」
 フォビスの言いざまに、ピスティの頭の中で何かが切れました。
「馬鹿野郎ッ!」
 ピスティは、フォビスの頬を殴り飛ばしました。フォビスは呻き声をあげて、地面に倒れます。
「国を捨てて逃げようとした腰抜けが王だなんて、笑わせるなッ! この・・・・・・この――」
 続く言葉が見つかりません。しかし気持ちは高ぶる一方です。その高ぶりが拳にみなぎります。
 が、もう一度拳をあげたところで、その拳をライに握られてしまいました。
「離せッ!」
 しかし、ライは離しません。

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