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第10章 裏切り者

 膝ががくがくと揺れ、顎が震えて歯のぶつかる音がかちかちと鳴っています。
 庶民の声は、ますます大きくなります。
 殺せ! 殺せ! 殺せ!
 死刑だ! 死刑だ! 死刑だ!
 フォビスの震えはついに全身にまでおよびましたが、急に甲高い声で叫びました。

「黙れ!」
 黙れ黙れ黙れッ――フォビスは地団駄を踏みます。
「貴様ら! よくもそんなことが言えたものだな! 民衆ども、よく聞け! 私こそが正当な王だ! その私を処刑などと、よく言えたものだな!」
 その言葉に、民衆は一瞬だけ静かになりました。
 しん、と静まり返った時、民衆の中から、声があがりました。

「何を理由に正当な王などと言えるんだ!」

 大勢の中の一人が言ったことです。誰が言ったのかは、見分けられませんでした。が、フォビスはここにきて、口許に笑みを浮かべてそれに答えました。
「何を理由に、だと? いいだろう、教えてあげようじゃないか」
 さっきまでは怯えきっていたというのに、フォビスはすっかり持ち直しています。
「わがアウィーコート王国では、王子が二人以上いた場合、儀式によって、次の王になるものが決まる。お前たちも見ていただろう、矢の的当てだ。それにおいて、私は勝利をおさめた。五十点差でな! それが、私の王位が正当である証だ!」
 きっと誰もが思っていたでしょう。何を的当てくらいで、と・・・・・・。しかし、そのような決まりがある以上、フォビスの説明に文句をつけることはできません。高ぶっていた民衆たちは、すっかり静かになってしまいました。

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