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溺れるまでしたい

第1章 浮気心


「ごめんね。ちょっと体調悪くなって…」

「大丈夫か?」

「うん」

「無理するなよ。ゆっくり休めよ」

「うん」


その言葉通り、あたしはみるみる体調が悪くなって次の日、休んでしまった。

そしてその週明け。


「…翔先生?」


朝一、あたしは翔先生が居る空教室へ向かった。


「アユ?もう大丈夫なのか?」

「うん。翔先生に会いたくなって」

「俺も、アユに会いたかった。てか、そろそろ先生って言うのやめたら?」

クスっと笑う翔先生は、何事もなかったようにあたしに接する。

「だって学校だし」

「こんなとこ誰も来ないから」


うそばっか。

梨花先生来てたじゃん。

ここで梨花先生と…


「ねぇ、翔先生?キスしてよ」

「いいよ」


翔先生の胸に飛び込んで、キスを交わす。

何度も重ね合わして、翔先生の舌があたしの口内へと入り込む。


「はぁ…んっ、」


絡み合う舌。

こんな風に梨花先生とも。

なのに聞けない…


その心地いいキスが予鈴によって遮られる。


「アユ、今日はごめん。俺、行くところあって」

「行くところ?」

「校長に買い物頼まれて」

「そっか。わかった。じゃ、明日ね」

「おう」


キスで浮かれていた。

今日は会えないけど、その朝のキスで浮かれていて、すっかり忘れていたことがあった。


その放課後。


「あーゆーちゃんっ、」

「え?」

「なんだよ、その顔」


クスクス笑うその顔。

相変わらず端正なその顔が憎い。


「な、なに?」

「ちょっと来いよ」

「え、何処に?」

「いいもん見せてやる」


グッと引っ張られたあたしの腕。

そして絡み合いそうになるあたしの足。


「え、ちょっと、なんなの?ま、待ってよ!」


グッと足に力を入れた。

そんなあたしに振り向いた傑の瞳が何故か怒っていた。


「んだよ、」

「んだよって、それあたしの台詞だけど」

「あぁ、そう」

「あぁ、そうって…」


あたしの言葉など無視して行く傑はいつもと様子が違くて。

それどころかギャラリーに居る女達の傑を見る瞳が怖かったりもする。

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