箱……戎壹
第2章 十月十日後の母の手
その足で――――私は…その地を後にした。
あれから10年――――
私は、地方の田舎町にすんでいる。
10歳の息子と…共に。
名前を変え――――…
私の子として育てているこの子は…
あの日の――――新生児室から連れ出した……主人の子の一人である。
抱き上げても…泣かない方を…退院用の鞄に詰めて…運んだ。
一時期――――世間を驚かせた、新生児失踪事件だが…。
私は、その事件を無視し続けた。
逃げも隠れもしなかった――――堂々と…新生児を抱きながら…移動し続けた。
だが、身代金目的と思われていた事件が一向に進展せず……。
そのニュースはいつの間にか…世間から忘れ去れた。