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狂想記

第1章 滅びの空

 散歩へ行くことになった。
 急な思いつきではないだろう。なにしろ、保育園の先生が言うことなのだ。生徒を大勢引き連れて歩くとなれば、安全などの対策を練らなくてはいけない。だからきっと、前から計画されていたことなのだ。
 みんなは喜んでいたけど、私はそれほど嬉しくはなかった。といって、厭なわけでもなかった。散歩へ行くのか、そうなのか、と思っただけだ。
 ただ、退屈だな、と思った。
 なにしろ、私はもう十九歳なのだ。恋人でも家族でも友達でもない集団の一員となって歩くなんて、ただ退屈なだけだ。といっても、私が十九歳だということは、誰にもわからないけれども・・・・・・。
 先生の号令に従って、庭にクラスごとの列ができた。散歩へ行くのは、たんぽぽ組とさくら組だけらしい。ほかにもクラスはあるのに、散歩へ行くのは私たちだけらしい。
 いよいよ散歩に出たのだけど、なぜかたんぽぽ組には先生がつかないそうだ。担任の先生は私に向かって、
「あなたがたんぽぽ組の先頭を歩いてね」
 と面倒くさそうに言った。私はそれを引き受けて、クラスメイトの先頭に立って道を歩いた。
 私は行き先を知っていた。教えられたわけでもないのに、知っていた。そして、先生がなぜ私にたんぽぽ組を任せたのかもわかっていた。
 それが気に喰わないから、私はわざとわからないふりをして、駅を超えて歩いていった。
 後ろを振り返ると、私が行き過ぎた駅で、先生がさくら組の生徒に交通安全の指導をしていた。でも私が予想外の動きをしたせいか、なにやら慌てているようだった。
 私は、それを無視した。
 私は十九歳だし、保育士でもない。だから、私にとって何の得もない役割を押し付けられる理由なんてない。困るなら困っていればいい。私の知ったことではない。

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