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狂想記

第1章 滅びの空

 保育園の連中を無視して歩いているうちに、いつの間にか夜になっていた。
 まわりには誰もいない。保育園の生徒も先生も、いつの間にかいなくなっていた。
 私も、本来の十九歳の姿に戻っているようだった。
 くだらないお散歩から解放されてすっきりしていたけど、反面、なにかとんでもない不安が胸に満ちていた。
 夜空を飛行機が飛んでいる。
 普通の飛び方じゃない。ものすごい低空飛行だ。電柱くらいの高さを飛んでいる。飛行機の窓と、その奥に座っている乗客の顔まではっきりと見える。
 なにより異常だったのは、飛行機が炎に包まれていることだった。
 飛行機は、轟轟と燃え立つ炎を、機体全体にまとって、夜空を切り裂いていく。
 とんでもないことが起きていると私は思った。
 飛行機事故はもちろん大変なことなのだけど、飛行機事故そのものじゃなくて、飛行機事故を引き起こした背景に、世界の存亡がかかるほど大きな何かが潜んでいるような気がしてならなかった。
 飛行機が見えなくなると、今度はヘリコプターが飛んできた。どこかの国の戦闘ヘリが攻撃してきたのかと思って、私は逃げようと思ったのだけど、そうではなかったらしい。
 ヘリコプターに乗っている人が、拡声器で何か告げている。音が割れてよく聞き取れないけれども、

「槍ヶ岳を中心に震度2。槍ヶ岳を中心に震度2」

 そんなことを言っているようだった。
 私の予感は的中したらしい。
 燃える飛行機が低空飛行して、誰もいない街に、無意味な地震の情報を伝えるヘリコプターが飛ぶ夜空なんて、おかしい。
 日常とは真反対なことが起きている。
 私たちが生きていることを日常と呼ぶならば、その反対は滅びだ。
 私が見あげているのは、きっと滅びの空なんだ。
 私の胸にあった不安が爆発して、私も街も世界も、みんないっしょに包み込んでしまった。


 (了)

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