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狂想記

第2章 気持ち悪い生き物

 私はベンチに座っている。
 日差しは暖かく、風は穏やかで、散歩をするには丁度いい日和だ。この温かさに誘われてふらりと家を出てきたのだが、途中で歩き疲れて、ベンチで休むことにしたのだ。
 眠気さえ湧いてくる陽気に反して、私は耐え難い不快感を抱いていた。
 その不快感の元は、足元にある。
 正確に言うなら、ベンチの下だ。
 除いているわけでもないのに、私はベンチの下に何があるのかを知っている。
 ベンチの下には、沼があるのだ。広さは大したことないが、深さは底知れない。
 そして、その沼の中には、たくさんの生き物がいる。
 水底から生える肉質の管。
 水中を泳ぎ回る目玉。
 ベンチに座っていた私は、いつの間にか沼の中にいた。
 水中だというのに、なぜか呼吸は苦しくない。ただ、すこぶる不愉快だった。
 まず臭いが凄まじい。何かの腐ったような臭いが、鼻腔に充満する。水中にあっても、臭いは感じるものであるらしい。
 次に不愉快なのは、湿り気だった。熱くも冷たくもない水は、どこかどろりとしていて粘性がある。それが服に染み込んで肌を覆っている。
 何より不快なのは、沼の中を泳ぎ回る生き物達だった。
 及び回る目玉は、目玉しかないというのに、どこか嘲笑っているかのようだ。
 水底から生える肉の管は、ぶよぶよとしていて禍々しい。触るのさえ嫌だというのに、その肉の管は、あろうことが私の口の中へ入ってくる。
 勿論、美味しくなどなかった。不愉快で、厭で、臭くて、味なんかは、まるで煮崩れたゴムを噛んでいるかのようだ。
 そんなものが口の中に入ってきているというのに、私はそれに郷愁を覚えている。
「昔、よく食べた」
 などと口に出して言っている。誰かが聞いているわけでもないのに・・・・・・。

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