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カトレアの咲く季節

第8章 嵐

「うるさい! お前なんかの指図は受けるか!」
 本当は、ユナを運ぶのを手伝ってくれたことに礼を言いたいと思っていたのに。

 アレクは膨れ上がる不安を怒りにして、ライにぶつける。ライは感情のわからない顔つきでアレクを見ている。
 アレクはふと寒気を感じ、くしゃみをひとつした。

(悔しいけど、ライの言う通りだ)
 目の前の少年を睨みつけながら、思う。
(俺まで倒れちゃいけない。ユナの看病をするんだから)
 汗が冷えて体温を奪っていく様に、アレクは子どもの頃を思い出すようだった。このままでは熱が出る。

「一旦帰って、着替えてくる」
 青白い頬のユナに近寄ると、胸が上下しているのが見えて少しだけホッとした。
 家に帰って、ついでにユナの着替えも取ってこよう。養母から看病の仕方を習ってこよう。

「戻ってくるまで、ユナを見てて」
 不本意だけれど、今はライに頼むほかなかった。
 ライはそんなアレクの胸の内を知っているように、密やかに微笑む。
「あぁ、任されよう」

 空は依然として厚い雲で覆われている。
 じきに雨が降りそうだなと、アレクは思った。

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