テキストサイズ

カトレアの咲く季節

第9章 二人の少年

 以前歳を尋ねたら、「君のちょうどひとつ上だ」と言われた。確かに見た目はその通りで、細い手足もつるりとした喉も、15に満たない少年だとすぐにわかる。

 けれど、話し方や言葉遣いには不思議と老成した落ち着きがある。
 アレクがどんなに邪険にしようとも、決して声を荒げず、怒りに顔を歪めず、少々大袈裟すぎる身振りで静かに笑うその様は、いつか見た芝居の登場人物にも似ていた。

 加えて、この国では見ない色彩を放つ髪と瞳が嘘臭さを助長する。
 
「すごく綺麗な男の子よ」
 ライがこの街に来たばかりの頃、まだ顔を合わせていなかったアレクがどんな奴だと訊いたら、ユナは微笑んでそう答えた。
 けれどアレクは、ライを綺麗だと思ったことはない。

 綺麗というのはアレクにとって、ユナだ。
 収穫の女神フレンや、ユナが愛してやまない花々もそう。
 ライは違う。

 例えるなら、見事に咲いた薔薇の花を切り取って、代わりに精巧な粘土細工の蕾にすげ替えたような気味の悪さがあるとアレクは思う。
 見た目は完璧な薔薇だけれど、香りはなく、どこかアンバランスで、触れることすら躊躇う。

 偽物のような少年。
 それが、アレクがライに抱いている思いだ。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ