カトレアの咲く季節
第11章 夢か現か
アレクの記憶には、確かに17歳のユナがいる。仄かな恋心を抱いて見上げた横顔。早く肩を並べられるほどに成長したいといつも思っていた。
けれど養母は疲れたように息を吐く。ユナはいないのだと、もうとっくの昔にいなくなったのだと、その瞳はアレクに語りかける。
アレクのこの記憶は、夢なのだろうか。
「じゃあ、ライは?」
この問いかけに、養母は初めて怪訝な顔になった。
「ライ? 誰かしらそれは。聞いたことのない名だこと」
「ちょっと前にこの街に来た、俺と同じくらいの歳の子だよ。金髪の」
「金髪? そんな髪色の人間は今まで見たこともありませんよ」
養母の瞳は澄んだ鈍色で、とても嘘をついているようではなかった。
「ごめん、ちょっと一人にして」
思考が絡まる頭を整理したくて、アレクは養母にそう告げた。
彼女は小さく頷いて、アレクの髪を軽く撫でる。その指の温かさや優しさは記憶のままなのに。どうして。
「あらアレク、ここどうしたの?」
髪を整えて立ち上がろうとした養母が、ここ、とアレクの首筋に軽く触れた。
途端にぴりっとした痛みが走り、アレクは顔を顰める。
「痛むのね。軟膏でも持ってこようか」
「それよりも、鏡持ってきて。きっと大したことないよ。触らなければ痛まないから」
「そう?」
養母はなお、心配そうにアレクを見たが、アレクがもう一度首を振るとゆっくり立ち上がった。
手渡された手鏡で、アレクは首筋を眺める。
そこには太い針で突いたような赤黒い点が二つ並んでいた。
その傷痕に、夢のような記憶の最後の場面が蘇る。
ライの口から見えた鋭い牙が。
それが自分の首に突き立てられたところが。
目眩がして、寝台に倒れるように伏せた。
どういうことだ? あれは夢か、やはり現実なのか?
ふと枕の下に何か硬いものを感じて、アレクはそこに手を差し入れた。触れた塊をするりと取り出す。
それは葡萄酒色のハンカチだった。中に何か包まれている。
見覚えのないハンカチだ。アレクのものではない。記憶に残る、ユナのものでも。
けれど養母は疲れたように息を吐く。ユナはいないのだと、もうとっくの昔にいなくなったのだと、その瞳はアレクに語りかける。
アレクのこの記憶は、夢なのだろうか。
「じゃあ、ライは?」
この問いかけに、養母は初めて怪訝な顔になった。
「ライ? 誰かしらそれは。聞いたことのない名だこと」
「ちょっと前にこの街に来た、俺と同じくらいの歳の子だよ。金髪の」
「金髪? そんな髪色の人間は今まで見たこともありませんよ」
養母の瞳は澄んだ鈍色で、とても嘘をついているようではなかった。
「ごめん、ちょっと一人にして」
思考が絡まる頭を整理したくて、アレクは養母にそう告げた。
彼女は小さく頷いて、アレクの髪を軽く撫でる。その指の温かさや優しさは記憶のままなのに。どうして。
「あらアレク、ここどうしたの?」
髪を整えて立ち上がろうとした養母が、ここ、とアレクの首筋に軽く触れた。
途端にぴりっとした痛みが走り、アレクは顔を顰める。
「痛むのね。軟膏でも持ってこようか」
「それよりも、鏡持ってきて。きっと大したことないよ。触らなければ痛まないから」
「そう?」
養母はなお、心配そうにアレクを見たが、アレクがもう一度首を振るとゆっくり立ち上がった。
手渡された手鏡で、アレクは首筋を眺める。
そこには太い針で突いたような赤黒い点が二つ並んでいた。
その傷痕に、夢のような記憶の最後の場面が蘇る。
ライの口から見えた鋭い牙が。
それが自分の首に突き立てられたところが。
目眩がして、寝台に倒れるように伏せた。
どういうことだ? あれは夢か、やはり現実なのか?
ふと枕の下に何か硬いものを感じて、アレクはそこに手を差し入れた。触れた塊をするりと取り出す。
それは葡萄酒色のハンカチだった。中に何か包まれている。
見覚えのないハンカチだ。アレクのものではない。記憶に残る、ユナのものでも。