不純異性交際(上) ―ミライと瀬川―
第16章 埋められない溝
今夜は久しぶりに、フミと向かい合って夕食をとっている。
約束していたわけでもないし、たまたまタイミングが合っただけ。
酢豚を箸でつつきながら、もう片方の手には携帯を持っているフミ。当然のように会話はない。
私を見ることも無いし、そもそも私の存在自体を気にする様子がない。私がこうしてフミを見据えている事も、彼には知る由もない。
少しの緊張で鼓動が早まり、私は生唾を飲む。
「ねぇ・・・。」
「・・・・・・ん?」
携帯をいじりながら、随分と長い沈黙のあとフミは声を発した。
・・・・・・
「今の私たちってどう見えているんだろう、会話も少ないし…。もうずっと、エッチとかも…してないよね。」
フミは一瞬驚いたような顔をして私の手元まで目線を上げたが、目を見てくれることは無かった。
「そういえば最近してないね。そんなつもりなかったけど、いつの間に毎日が過ぎちゃうんだよね」
すぐにまた携帯を弄りながら、気にも止めない様子で答える。
…最近?
…そんなつもりはない?
2年以上もしていなくて、よくそんな事が平気で言えるものだと逆に感心してしまう。
しかし、妻として歩み寄らなくなっていた私にも問題はあるのかもしれない。
「最近っていうか…もう2年以上してないよね?」
「仕事部屋にこもっててベッドに来ないのはミライじゃん」
「それはつい最近の話でしょ…?!」
「…つまり何が言いたいの?」
フミが不機嫌そうに私を見る。
「なにって…。このままでいいのかなって…」
私はずっと手に持ったままだった箸を置く。
フミは、ふっと鼻で笑ったかと思うと「…なに、セックスしたいって話?遠回し過ぎてビックリなんだけど」片方の口角を上げ、小馬鹿にしたような嫌な顔をする。
鼓動が早くなり、苛立ちと虚しさでいっぱいになる。
心臓が破裂しそうだ。
「…そうじゃないっ…!!!」
私は近くにあった小さなクッションをフミに投げつけ、バタバタと仕事部屋へ駆け込んだ。
ギリギリのところで保たれていた私の自尊心が、ゆっくりと崩れていく。