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お面ウォーカー(大人ノベル版)

第2章 ええーっ!

上着のポケットに入れてないかと、組んでいた腕をほどき、手の位置を変える。

この時、左隣のサラリーマン風の男性の腕を、肘でついてしまった。

「あ、失礼」

一応、声はかける。

左ポケットに手をいれてみるが、そこにもない。

(逆側か?)

今度は、右側のポケットを探る。

隣の男性が、なにやら話し出したようだが、良夫にはそんなの関係ない。自分のことしか考えられない。

そうしている間に、降りる駅が近付いてくる。

(ヤバい……)と思ったその時、顔とお面に隙間が空いたような気がした。

ゆっくりと顔が軽くなり、空気を感じる。

なにがどうなったのか、お面は良夫の顔からはずれた。

(えっ?)

そっと、手で顔を撫でてみる。

毛糸の手袋の感触が、頬に伝わる。

「よし!」

思わず声が出た。ほんの数十秒の間のことだった。

(これ、顔に近付けたらアカンな。会社のロッカーにでもいれおこう)

短くても心地良い電車でのひと時が、このお面のおかげでぶち壊された。

また、何時、顔につくかもしれない。

良夫は、お面を上着の下に入れたが、今度は表側を自分の体に向けた。

電車が止まり、扉が開く。

先ほどのサラリーマン風の男性は、なにやら揉めながら駅を降りていく。

良夫は、なにがあったんだろうと目は向けてみるも、他人のケンカには首を突っ込まないと決めていたため、そのまま電車を降りた。

巻いていたマフラーの後ろ側に、サングラスが引っ掛かっているのを知らずに……。

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