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お面ウォーカー(大人ノベル版)

第5章 その顔で歩く

「ちなみに、二つで2500円になります」とおばちゃんは笑う。

「ごめん、どこのパティシエがあの狭い厨房にいてはるの?」

そう言いながら良夫は、静かにその二品を長谷川の方に滑らせた。

「おい、長谷川さん。ここ、下手に料理名言うたら出てきよりまっせ」

「クエ鍋って言うたらどや?」

「そんなチャレンジ、ようしません。出してきたらどないしまんねん」

「見てみぃ、おばちゃん魚市場に電話しとる……てか、このケーキはなんや?」と長谷川は、箸でケーキを一口つまむ。

「それ、長谷川さんが、夢の話を流してる間に注文が通ったやつですやん。でもこのままやったら、クエ鍋きてしまいまっせ」

「ええ方法がある」と長谷川。

カウンター裏のおばちゃんに聞こえるように、

「おばちゃん、クエをやめて、てっちりにするわ」

「なるほど。たしか、免許が無くて、飲食店側が処理が済んだふぐを仕入れて,調理販売するんでも、処理情報かなんかをもろうて、提供できるようになんらかの記録がついたのを持ってなあかん……てのを聞いたことあるわ 」

「田中さん、よう知ってるなぁ」

「うちのいとこが調理師免許持ってる板前さんなんや。それで聞いたことあんねん」

「そうや、だから、そう簡単には出されへんやろ」

だが、おばちゃんはタブレットでなにかを探し始めた。

長谷川は、すぐさま察知した。

「フグ調理師免許を取得するための、願書を申し込もうとしとるな」

「我々は、それまでここで待つんですか?」

「帰ろうか」

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