テキストサイズ

お面ウォーカー(大人ノベル版)

第5章 その顔で歩く

大きさ的には、それほどではないようだ。

だが、やがてそれが月を覆い隠すまで近付いてきた時、良夫の表情が恐怖へと変貌した。

その物体は、被さるようにして、良夫の顔めがけて落ちてきた。

「うわっ!」

良夫は、思わずよろけてしまい勢いよく後ろに倒れ……そうになった。

不思議に、落ちてきたような衝撃はなく、軽く良夫の顔にのった……といった感じだった。

良夫は顔を押さえる。だが、その手触りには身に覚えがあった。

「ちょっと待てぇーーっ……なんでだよおっ!」

顔し落ちてきたのは、あのお面だった。

「待て、こいつは押し入れの中にあったはずだ。なぜ、ここにあるんだ!?」

焦り、恐怖、困惑等、幸せ以外の全ての感情が混ざり合う。

数日前、良夫はお面を、押し入れの奥に入れたままにしていた。

アパートの良夫の部屋には、鍵がかかっている。

「どうやって出て来た!?」

お面の顔を隠し、うずくまりながら考えるが、どう理屈を浮かべても答えは出ない。


だが、お面が出て来れる奇跡はあった。それは、今から20分前のこと。

場所は、良夫のアパートからの最寄り駅である、JR平野駅。

そこに、黒い礼服を着た高年齢の女性が、手に荷物をもって、改札から出て来た。

「はぁ~寒いわねぇ。あの子いてるやろか? いきなり行って脅かしたろ」

女性はレディース用のジャケットを羽織り、首には白いマフラーを巻いている。

そして、周りを確認し、歩きはじめる。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ