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お面ウォーカー(大人ノベル版)

第5章 その顔で歩く

「確か、この辺りだったよねぇ」

しばらく歩いてたどり着いたのは、良夫が住むアパートだった。

なんの迷いもなく、女性は階段を上がり、ある部屋の前に立った。扉の横の小さなガラス窓からの明かりはなく、それだけで部屋には誰もいないことを示していた。

女性は軽くため息を吐いたあと、黒いハンドバッグから鍵を出した。

その鍵を使い扉を開ける。

靴を脱ぎ部屋に上がると、手探りで扉横の壁を探る。

スイッチらしき物に手が触れると、なんの迷いもなく押してみた。

チカチカと、明かりがつき部屋の全貌が見える。

扉を閉め、部屋の中を見て歩くが、何度もビールや酎ハイの空き缶を蹴ってしまう。

「んもぉ~、ちゃんとまとめて捨てなさいよ。本当にだらしない。それに、姉さんの写真も飾ってない……まったく、あの子はどうしようもないねぇ」

この女性、良夫の母の妹にあたる存在であり、つまり良夫にとって、叔母である。

黄木樹鈴(おうきぎ すず)64歳、よく読み方を「きききりん」と間違えられる。

良夫の母は、良夫が幼い頃に病気で亡くなり、叔母である鈴が、良夫の面倒をみていた。

良夫にとっては、叔母であり、母でもあるのだ。

ちなみに、良夫の父は健在で、会社を定年退職したあと、愛人と一緒にテイクアウト専門のお好み焼き屋を経営している。

鈴は、いつまで経っても甥っ子である良夫のことが心配で、時折、合い鍵を持って訪ねてくる。

良夫の部屋の炊事場をみれば、インスタントラーメンを作ったと思われる小鍋と大きなお椀がドンと置かれ、点々と青緑の物体が見てとれた。

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