テキストサイズ

蜃気楼の女

第21章 学園

 櫻子は園長と思われる紳士の前にゆっくり腰をくねらせながら、一歩ずつゆっくり歩く。彼が座る机の前で、腰に右手を当て、口を半開きにしてから、唾液が絡んだ怪しく光るベロで唇をゆっくりなめ回した。足を交互に組み替え、右足を前に出し、コートの裾から白くて細い足を差し出した。コートの間からはみ出した腿の前ボタンを下から1個ずつ、外していく。それはゆっくり、ゆっくりと、ただ、黙ったまま。学園長も黙ったまま、櫻子の全身をつま先から頭頂部までゆっくり、なめるようにその様子を見守る。園長は前ボタンを外す櫻子の体からやがて現れるふくよかな乳房を固唾の飲んで見守った。その間、30秒ほど、空気の張り詰めた時間が過ぎた。閉じていた園長の口が時間とともに、櫻子の開けた口と同じくらいに開き始めた。ぽかんと開けた園長の口から奥歯が見えたとき、すっかり顔の表情はにやけていた。櫻子は自分の全身をなめ回す学園長を見て、ついに、エロじじいに成り下がった、とほくそ笑んだ。あたしの魅力で悩殺してやったわ。これから園長はあたしのものよ。そうなると、櫻子は確信した。やがて、にやけた学園長が正気に戻ったように、顔を正常に正すと、やっと言葉を発した。
「長旅、御苦労様でしたね、櫻子さん」
 櫻子に向けられた暖かな笑顔を崩すことなく、学園長が椅子から立ち上がり、櫻子のほうにゆっくり近づいてきた。
「何? 長旅って? 櫻子って? どういうこと? このおじいさんも、超能力者なの? 」
 学園長の初めての一言に驚いた櫻子は、園長の歩みを遮るように言った。
「学園長さん、きょうからあなたとバトンタッチよ、この学園はあたしが引き継ぐの…… あたしの新しい学校を造るの…… あなたは隠居してくださるかしら? 」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ