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蜃気楼の女

第21章 学園

 東京都下、清瀬駅を降りてから、農道を20分ほど、足早に歩いてきた櫻子は、緑色にさびた鉄柵で閉ざされた正門の前で歩みを止めた。春の暖かな日差しを浴びながら歩いてきたせいか、額にほんのり汗がにじんでいた。全身の筋肉を鍛えていた櫻子でも、日本の気候にまだ慣れないため、息も少し上がった。深く呼吸をし、目を閉じた。もっとも人間愛、責任感、博愛、慈愛、すべての愛を知り尽くした、愛に貪欲でいて崇高な精神を持つ人間の脳波を感じた。その光を放つ人間の存在に、櫻子は、天使のようで、高尚な教育者を想像し、期待で胸が高鳴った。日本で最も崇高な学園長と言っても過言ではない。一刻も早く会いたくて学園長室に向かって進んでいく。学園長室のドアをノックもせず、勢いよく開け放つ。真正面の机に白髪の濃紺のスーツを極めた紳士が、顔を上げて櫻子に顔を向けた。

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