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蜃気楼の女

第22章 学園長・田所平八郎

 しかし、平八郎と会ってわずか二日というのに、一人でいると、学園長のことばかり考えてしまう。学園長といるときは当然のことだが、ドキドキ、心臓の鼓動が速まり、顔を紅潮させた。いつもの自分ではない。平八郎の本心を知りたいが、私生活を語らない。だから、この人は何を考えているのかと思うと、気になる。好奇心で、いても立ってもいられない。この人を知りたい、という気持ちが湧く。この世に、聖人君子は指で数えられるくらいしかいないだろう。その指に、学園長が入るほど、世界は狭くない。櫻子はそう確信している。学園長が根っこの部分で、動物的、野蛮な男、そういう部分がある、と確信する。根拠のない確信であるが、そうでないと、自分の日本国乗っ取り計画は、完全に頓挫することになる。なぜなら、この乗っ取り計画は、学園長を自分のナイスバディーを餌に、色仕掛けで、たぶらかすことが基本計画だ。櫻子の色仕掛けでなびかない男がいると仮定したら、それは女か? あるいは、オカマ、ゲイ、という可能性も捨てられない。そうだったら、どうする? 櫻子の脳裏にはそんな疑問も交錯した。そうだとすれば、学園長と絶対セックスできない。自信満々の櫻子に、失望感、絶望感、ネガティブな感情が沸いた。こんな不安定な気持ち、学園長に会うまで感じたことがなかった。胸が苦しい。櫻子はたった一人の老人のことを、自分の意のままにできない男がいることを、どうすることもできず、悩んでいる自分が情けなかった。苦しくて、やるせなくて、自分の腕で自分の上半身をぎゅっと、抱きしめた。この気持ちは何なの? もう、自分が自分でない。学園長を思えば思うほど、胸が苦しい。
 見習い学園長代行・山野櫻子は平八郎の後に付きながら業務を指導された。老齢の学園長は気立てが良くて美少女なのに、気取らず、おおらか、世話焼き、それでいて、エッチが好きなところ、が気に入った。学園長は櫻子をずっとそばに置きたい、と考えた。彼女をそばに置いておくにはどうしたらいいか。副学園長にし、いずれ学園長を任せよう、と決心した。
「わたしは君みたいな孫がいてもおかしくない年齢です。もっと、早く君と知り合いたかったです。でも、遅くはありません。これからいっぱい知り合いましょう。いいですよね? 櫻子さん……」

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