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蜃気楼の女

第22章 学園長・田所平八郎

 平八郎はそう言いながら、櫻子の手を握りしめる。櫻子は母国で父から超能力の制御方法を教示してもらったとき、父が怖くて緊張の毎日だった。ところが、学園長の人柄か、教え方は優しく、気が付くと、いつの間にか学園長を見つめ、師と仰ぐようになっていた。否、この気持ちは師と言えるだろうか? 会ってからまだ二日というのに、この気持ちは一体何なの? 櫻子は不思議に思った。櫻子は首を左右に勢いよく振った。
「これって、一目ぼれ? うそ! ダメよ、あの老人を利用するのよ! あの男の価値は、一時の道具でしかないのよ! そうよ、ゲームの駒よ!」
 櫻子は、初心を忘れず、学園長の秘書をしながら、学園長の仕事を早く吸収しようと真剣だった。彼女は、学園の授業が終了すると、慣れない仕事で、張り詰めた気持ちが解放された。学園長を平八さん、って呼ぶような関係に打ち解けていた。それほど、櫻子の気持ちを包んでくれた。彼と一緒にいると、ほっとする。虐げられた民族、アラビアーナ人として、女王妃という称号ではあったが、国民そのものがこそこそ隠れて生きてきた。日本は別世界で驚くことばかりだった。とにかく、彼といると、安らぐ、櫻子は平八郎を見つめる。
 学園長は、櫻子が学園に来た日、校舎の離れにある学生寮に櫻子を住まわせた。女子寮として建てた木造2階建ての洋館である。今では、共同生活を好まない生徒が増えたため、使われていない。
「櫻子さん、部屋はいっぱいありますから、どこでも好きな部屋を使ってかまいませんよ。わたしもここに住んでます。部屋は一番奥です。食事は食堂です」

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