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蜃気楼の女

第23章 櫻子VS尚子

「じゃ、何? この平八さんの今の状態は? 体が固まったままじゃないの。電池の切れた人形じゃないの? これってどういうこと?」
 櫻子は、尚子が平八郎の体を乗っ取り、今まで、でくの坊学園長として行動させ、自分の心を平八郎を使って踊らせていた。そう思うと腹が煮えくり返ってきた。あたしの平八郎をどうしたの? 返事次第ではただでは済まないわ。
 カタカタ、カタカタ、周辺の家具や装飾品がわずかに上下に振動し始めた。幾つかの椅子が床から離れ出し、空中に浮いた。それを見た尚子の顔が引きつった。
「ワワワ、ち、違います。櫻子さん、落ち着いてください。説明しますから。学園長のこと、あたしのこと、いろんなこと、誤解されたみたい。ごめんなさい。エエエーっと、こ、これから櫻子さんに見てもらったほうが早いと思います。百聞は一見にあらず、って言いますから、あたしに付いてきて見ていただけますか?」
 怒りで頭がパニクになりかけた櫻子は、尚子の言うことを信用できなかった。目の前に腰掛けている学園長がこの部屋にいないような口調だ。移動するまでもなく、この部屋にいる平八郎の呪縛を尚子が解けばいいだけ。しかし、何故か、平八郎は両目を開いたまま、瞬きすらしない。椅子に座ったままだ。先ほどからの平八郎の状態に櫻子は疑問を抱き始めた。今までの平八郎がもう存在しないかも知れない。嫌な予感が湧き上がるばかりだ。周辺の家具が、カタカタカタ、振動が大きくなり始めた。
「ワワワワーーー 櫻子さん、アアアアアアーーー どうか、冷静で、お、お願いします」
 尚子が、頭に両手を当てて混乱状態の櫻子の体を抱いて興奮を静めようとした。しかし、櫻子はその尚子の腕を払いのけた。その瞬間、尚子はその勢いに押され、体が一瞬浮いたと思ったら、勢いよく後ろの壁に瞬く間に飛ばされた。壁に掛けてある風景画に尚子は背中から勢いよく当たった。その瞬間、グシャ 尚子の全身の骨が砕ける音がした。櫻子の目から止めどもなく涙が流れていた。
「平八さん…… あたしの平八さん……」
 櫻子は椅子に座ったままの平八郎のそばに立つと、彼の肩を包むように抱いた。
「何? これ? 平八さんの体じゃないわ、どういうことなの」

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