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蜃気楼の女

第27章 後継者・橋本浩一

 尚子は超能力があるから養成学科のテクニックは必要ないという。尚子の言う超能力という言葉が何を意味することなのか、橋本には意味が不明だった。尚子はさらに続ける。
「学園長は高尚な方で、あたしは尊敬しています。だから、両親はこの学校への入学を選択したの」
 尚子は幾分怒りながら話を続ける。尚子には自分の中にいるエッチ大好き悪魔が、「おまえらの力で報復しろ、民族を解放するのだ! 子孫たちよ、立ち上がれ!」と激しく背中を押してくる。ときどき、自分ではない自分が悪魔の誘いに乗ってしまうことを自覚している。学園長と比べて、あたしはなんて、道徳も、倫理もない、ひどい女だろう、と卑下することばかりである。きょうも、ひどいことを考えた。橋本をレイプしようとしていたこと、橋本にそのことを隠さず話した。悪魔と戦いながら、抑え込んできた性欲が限界を破壊されて、今日みたいにエッチが制御できなくなる。
 それなのに、尚子は、いとも簡単に、橋本に諭されて、悪魔の心が意気消沈した。この人ならあたしを救ってくれるかもしれないと直感した、と言う。
 尚子は姿勢を正しソファーに座り直し、橋本を見た。
「おじさん、あたしの悩みを聞いてほしいな……」
「ああ、もちろん、聞くよ……」
 橋本は今までとは違うまなざしをする尚子を見て、橋本も真剣な態度でそれに答えた。尚子は姿勢を正すと、ゆっくりした口調で話し始めた。学校の正門で橋本に会ったとき、尚子の心の中に、悪魔が出現して、橋本を自宅でレイプしろと命令する。
 こんなひどい行為を、自分の中にいる別の自分が指令する。別の自分に困惑することもきょうだけではなかった。最初のその犠牲者が隣に住む児玉進一だった。冷静に戻ると、進一に悪いことをしてしまったと、今も後悔するばかり。そのときは、真っ当な自分ではあっても、すぐに、別の悪魔の自分に支配されてしまう。きょうもその後悔を繰り返すことになりそうだった。それを橋本は救ってくれた、と吐露した。
「田所の目的はそのことを俺に聞かせようとしていたのかもしれないな?」
「あっ、そう、あたしの悩みを橋本さんに相談するといい、と学園長に言われていたわ。すっかり忘れていた…… もう、やんなっちゃうな…… こら、ダメな尚子……」

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