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蜃気楼の女

第2章 魔性の女・安田尚子

 暫くして、児玉は目を開けた。体が動かせない。快感の余韻が尾を引き、脱力状態が続いていた。5分ほど、その余韻を維持していたが、徐々に手が動かせるようになった。手の甲で額の汗を拭った。進一は射精してから下界に急降下した。高揚感がやがて安定に導かれる。開けていた眼を周囲に向けた。机の上に顔を乗せていることを認識した。おまけに、机の上に上半身を置いて放心状態になっていた。今まで床の上に座っていたはずなのに。進一が体を起こす。
「進ちゃん、やっと、目を覚ましたねーー 気持ち、良かったねー」
「尚ちゃん、きみにこんなことができるなんて、僕は信じられないよ……」
 尚子は進一の背後に立って、進一の胸の前で両腕を交差させると強く抱きしめてきた。
「まだ、まだ、これからよ、進ちゃん! もっと、気持ちよくして差し上げるわ…… あたしの体を…… そして、超能力をたっぷり堪能してね……」
「え? 何それ? 超能力って? 何の能力? エロいの? 僕、もう、さっきから分からないことだらけなんだけど……」
 児玉はいつもの尚子と違う尚子に興奮し冷静さが跳んでしまった。これは尚子ではない。尚子の体は魔物に乗っ取られたに違いない。突然、訳の分からないことを言う子じゃなかったのに、と児玉は純真無くだと思っていた、今まで観たことのない尚子の妖艶さに驚いた。
「先生、午後2時…… 」
 その声に驚いて児玉は眼を開けた。また、いつの間にかうたた寝をしていた。疲れがたまっていたのかもしれない、と児玉は思った。今度は椅子に腕を組んで座っていた。隣には尚子がいつもの定位置にいた。

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