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蜃気楼の女

第1章 再会

 そういうと、児玉の股間に手を伸ばしてきて、性器の上に手を置いた。
「あれ? ふにゃふにゃ? どうして? 」
 児玉は焦って尚子の手首を握り持ち上げた。
「きゃー、痛い! 」
 尚子が悲鳴を上げた。
「い、いや、興奮してなんかないから、前から言っているけど、こういう生地の少ないスタイルで仕事に来ないでくれないかなあ? っていうか、何でこの手を平気で、触れるの? 全く信じられないよ、何、考えているのさ」
 国会議事堂から1キロも離れた路地は、さすがに人通りがなかった。進一は、仕事中、若い女とこんな恥ずかしい会話をしていることに気が引けた。それでも、20メートル先に機動隊のトラックが駐車していて、機動隊員が4人、歩哨に立っている。そのうちの一人がこちらを見ていた。この状況は夢なんかではない。尚子といると、何故かエロい展開になって、変な悶々とした気分になり、現実感がなくなってくる。昔からそういう変わった女の子だった。
「ちょっと外の空気を吸ってくる。きみはここにいていいからね」
 尚子にそう言って、車外へ出た児玉は、太陽の日差しが降り注ぐ街の熱気を肌に感じた。しかし、すぐに額に汗がにじんできた。遠くからデモ隊のシュプレヒコールが聞こえてくる。
「男女共同参画社会をー 国は守れー 雇用機会均等法をー 国は守れー 」
 今、社会は大きく揺れ動いていた。進一の人生もこの4月の勤務先の人事異動で、尚子と4年ぶりに再会してから、尚子の影響で、少しずつ平穏だった日常から軌道が逸れ始めていた。

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