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蜃気楼の女

第1章 再会

「うわっ 暑いなあ」
 道路に立った児玉は、直射日光の強さに悲鳴を上げた。今朝の天気予報ではきょうの最高気温は39℃という異常な気温。腕から額からたちまち汗が吹き出してきた。働く女性の地位を平等に、という社会情勢をよくしたいという基本的人権を求める運動になっている。数年前、雇用機会均等法が施行されたが、新しい雇用形態である派遣という雇用形態が生まれ、男性はもちろん、女性に至ってはさらなる雇用条件の悪化を招き、女性の生活をさらに苦しくしていた。国民3人に一人が派遣という非正規雇用職員によって日本経済は支えられている。低賃金、低保障は人間の生活水準を下げた。その結果、結婚する男女は減少し、出生率は激減した。
 今、行われている抗議デモは、新生ウイルスの発生拡大があって、派遣待遇の女性が更新終了という形で、真っ先に解雇されている。職を失った女性たちで東京、日本国中、雇用される機会を失った。
 その状況を捉えて、社会全体で差別化の是正運動が加速される状況が生まれた。そして、その問題の改善、法律の遵守に向けて、きょう、自然発生的に抗議に賛同する人たちが、国会議事堂前に集まった。抗議の人々が溢れ、感染のクラスターになる恐れもあった。しかし、感染症で死ぬか、就労収入が途絶えて餓死するか、の二択しかない状況に追い込まれていた。戦って死ぬほうがましという考えではあるが、皆死にたくはない。ただ、人間として生まれて、人間として幸せな生活を送りたいだけだ。そんな思いとは裏腹に、政府はなんとか救済策を打ち出すと言っていたが、時間だけが過ぎた。
 午後12時のニュースでは46000人が全国から集まっているという報道がされた。90%が女性。しかし、これだけ科学が発達し、日常生活が豊かになった今日、若者の幸福感は低かった。やはり、この差別的な待遇を破壊し、再構築しようという運動が発展するのは時代の隆盛であろう。そんな思いを、新生ウイルスが切っ掛けを作ったと言うだけである。
 そして、この運動の先頭を切る救世主的な人物が山野櫻子だった。

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