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蜃気楼の女

第35章 現代の安田邸

「ねえ、進ちゃん、しっかりしてーー」
 進一は尚子の呼ぶ声を聞いて意識を覚醒した。体を動かそうとしたが、動かない。目を開けると、尚子の笑っている顔が目の前にあった。
「尚ちゃん……」
 進一はやっと妄想が終わって、いつもの平穏な日常が始まったと確信した。それにしても、体が動かせないことが不思議だった。段々、意識がはっきりして行くに従って、周りの景色を見つめた。どうやら、尚子の部屋のような大きな空間にまだいることが分かった。少し、頭を持ち上げて周囲を見回し、尚子がいた。尚子を見て進一は驚いた。尚子が裸だったからだ。
(エェ?? 目を覚ましたのにまだ妄想の世界にいるよー どうなっているの?)
 裸になっている尚子が、進一を見下ろしてにこにこしていた。
「フゥフフフゥーー 進ちゃんの心棒が東京スカイツリーみたいだねぇー 最高にかっこいいよぉー これからはいつも使っているドールと、進ちゃんが交代だよぉーー フフフゥフー」
 そう言って、鼻歌を歌っている尚子の顔は楽しそうだ。仰向けに寝ている進一の胸の上に頬を近づけると、ほおを進一の胸にピタリとつけた。
「進ちゃんの肌ってぇー 超ぅー気持ちいいわぁーー」
 胸に乗せた顔を進一に向けてうれしそうな顔をする。その尚子の行動を見た進一は、上半身の服がないことに気が付いた。頭を上げて、自分の体の状況を確認した。裸の尚子が顔を胸に乗せている。自分は服を着ていない。尚子が邪魔で、下半身がどうなっているのか見えない。でも、なんだか、下半身の風通しがとてもいい。見えないがジュニアに圧迫感がない感覚から服を着ていないようだ。
「うぅー 裸だぁー」
「そーよ、これでフェアな関係になったわぁー」
 尚子は相変わらず胸に顔を乗せて鼻歌を歌いながら進一の顔を見つめ楽しそうだ。進一は尚子の顔をつかもうとしても、体が動かせない訳を探る。顔を上部に向けると、手を上げて万歳をしている腕は、手首を何か布のようなもので作業台の隅にくくりつけられていた。真っ赤な色の革ひもが一直線に作業台の角に向かって伸びていた。

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