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蜃気楼の女

第35章 現代の安田邸

「ェエッ? 何それ? 妄想の世界にいる? 尚ちゃん、これ現実だからー」
「フフフゥー 往生際が悪いわねぇ、進ちゃんって…… じゃ、あたしの相手をしてくれたドールがどうなったか見るぅー これが現実だったら、大変よぉー 進ちゃん、気持ちよすぎて…… 気を失っちゃうかもねぇー」
 尚子の顔が心底楽しそうに進一に見えた。きっとすごい快感を与えてくれるのかもしれない。進一は期待で肉棒がはち切れそうだった。いつもなら机の上の写真の尚子に向けて精を放出するのが日課だった。けれど、今は、体の自由がきかなくて、何もできない。
 尚子は頬づえをついていた体勢を解き、立ち上がって作業台から離れた。いくつか並んだまゆの前で立ち止まった。並んだまゆの外れにブルーシートが被せてある前に尚子は歩いて行くと立ち止まり、振り返ると、進一の方向へ顔を向けた。尚子がニコッとほほ笑んだ。
「進ちゃん、これ、いつも使ってるのよーー」
 そう言った尚子がシートの裾を両手でつかむと勢いよく上に引き上げた。進一は恐くて目をつむった。
「さあー、進ちゃんーー よく見てぇーー」
 進一が右目をそっと開けた。
「えっ? 」
 進一は目を疑った。ただの物入れだった。
「ハァハァーン 何だと思った? 進ちゃん? ほんと、かわいいなぁー」
 そう言った尚子はその物入れから何かを選んでいる。革ヒモのようなものを手にした。
「進ちゃん、せっかくだから、ちょっといつもと違うことをしようねぇーー」

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