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蜃気楼の女

第37章 田所学園長の復活

 田所はベッドから降りると、寝間着を脱いだ。姿見の前に立つ。適度に隆起した大胸筋、力強い上腕二頭筋、6個の小高い丘のような腹直筋、カモシカのように走れそうな大腿四頭筋など、どれも発達した健康な肉体だ。そして、真ん中の肉棒は周囲の筋肉にふさわしい太さと長さを備え、見事の一語に尽きた。
 素っ裸で姿見の前に立つ田所を、櫻子と尚子は並んで見つめていた。櫻子は当初から平八郎タイプAndroidしかみていないので、初めて見る田所の強じんと言える肉体に畏敬を持った。櫻子の女性自身は湿りだし、早くも受け入れる準備が始まりだしていた。
 尚子はすでに橋本の肉体を隅々まで熟知していた。合体した橋本から恋人の関係になった、と宣言され、天にも昇る気分だった。尚子は上機嫌だった。
 それなのに、あのたくましい鋼の肉体の中に、橋本の「は」の字すらいないようだ。楽天的な尚子は、それでも、橋本が出現するときがあるのではないか、と楽観した。優秀な頭脳を持った尚子ではあるが、心の持ちようは能天気で、深刻さを感じたことはあまりない。幼少期から何でも透視する力が、よほどのことがない限り、深刻にならない力を付けたのだろう。
「今夜、学園長がぐっすり寝て、目を覚ましたら、おじさんになって目を覚ますんじゃないの? そんな深刻な状況ではないわ、ドンマイ、ドンマイよ…… それより、学園長の様子が…… なんか…… 変ね? なんか今までと…… 何かが違うような……」
 尚子は邪心に侵略されてしまった田所に違和感を感じつつ、明日こそはおじさんになっていてね、という淡い期待を寄せた。

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