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蜃気楼の女

第38章 邪心による支配

 万物は、元は原子である。思考という行為も、原子として存在する。精神も原子が結合した脳となった、なんて、聞いたことがないが、いずれ、誰かが証明してくれる。
 とにかく、俺は、今、闇の中で、生存し続けることは可能なのだろう。闇の中で、漂っているだけだ。思考していても、これが存在していると言えるか。原子が集合し、分子に形成される。分子は物となり、物は物を形成する。生物は交配し別の生物を輩出する。静物は溶かされ、冷やされ、熱せられ、圧縮され、別の静物を形成する。宇宙の万物は数億万年間、これを繰り返してきた。俺は、生まれ出たい。この世界に。たった、一瞬でしかない時間だが、生まれ出たい。
 尚子と連絡を取る方法を考えられれば、IQ(知能指数)の高い彼女のことだ、元の体に戻る方法を探せるかもしれない。
 尚子から超能力を授かった橋本は、心の消滅もかなわず、どこともしれない闇の中を浮遊した。
(尚子に会いたいなぁ。尚子はあんなに美少女なのに、ギャップがありすぎるくらい、スケベだよなぁー。また、尚子とつながりたいなぁー)
 橋本は尚子とつながっていた心と体の記憶を思い出し、何もない空間で、錯乱しそうな精神状態を、かろうじて、精神を正常に維持していた。

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