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蜃気楼の女

第38章 邪心による支配

 冷静に鑑賞すれば、倫理に劣り、公序良俗に触れる、実にみだらな、映像でしかないのであるが、筋肉が隆起した橋本の体、絶世の美女である櫻子の体、人工的に製作されたグッドデザイン大賞を受賞したドールの造形美、三位一体の美形映像がここに生まれた、とテロップが出る。このビデオは、何をテーマにしているのか、不明であり、怪奇と言っていいほどの劣悪な映像である。しかし、現代芸術として高い評価を受けた。訳の分からない著名な芸術家を田所が、学園の女子生徒とアダルトドールを送り込み、取り込んだ。すっかり芸術家、官僚は、田所の共犯者になり下がった。
 田所はさらに勢力を広げるため、スポンサーである大企業の取締役を、女子生徒とアダルトドールを使った同じ方法で取り込み、潤沢な資金を元に、テレビの深夜時間帯にこのみだらな映像を、毎夜、放映を繰り返した。この繰り返される映像が人間の性的な思考を鈍磨させ、これが日常の風景になじんでいく。
 やがて、性女学園の知名度も高くなり、女子生徒にも性の開放が現れた。
 夫婦、同性愛者などにも、ドールによって、画期的で、官能的な刺激が生まれるという口コミが広がり、爆発的にちまたに広がった。ドールは各家庭に1個が常識になりつつあった。単身の若者にもドールの製造が間に合わないくらいに急速に普及していった。
 ドールが売れるにつれ、学園の生徒募集のために掲げた広報的な教育理念は、「ドールとともに新セックスライフを楽しめる家族の相互愛を育んでいくための真のまっとうな教育を実践していきます」と変更され、何を言いたいのか意味が不明の教育理念になっていく。田所は邪心に完全に支配され、田所の心は完全に消滅した。

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