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蜃気楼の女

第4章 安田邸

必要は発明の母、とはよく言ったものである。そうして開発したアダルトドールである。尚子は人間と寸分変わらない感覚を得ることができるアダルトドールを自己の作品の超最高傑作と思っている。もしかすると、人間をも超えるかも知らない、と自負していたが、進一のことを考えると、その自信は崩れる。生身の進一が最高に違いないと思っていたからである。
 尚子はメグミというロボットの前に歩いて行くと、ケース上部にあるモニターにタッチした。モニターが明るくなった。モニターに文字が現れた。システム稼働 命令待ち という文字が表示された。
「メグミ、児玉進一に奉仕活動を開始しなさい」
 尚子が目を閉じたメグミに言葉を掛けた。モニターに出現した表示が命令実行中になった。今まで、人形と思っていたが、人間が目覚めるように瑞々しい呼吸を始め、胸が僅かに上下に動き始めた。メグミは閉じていた瞼をゆっくり開いていった。そして、片腕で両方の乳首を隠し、腰の横に置いてあった手を腰から少しずつ体の中心に向けて動かしていくと黒いヘアーを隠した。実に繊細なエロさを備えた動きだった。
「ようこそ、児玉進一様、あたしを選んでくださりありがとうございます。これよりメグミは全身全霊を掛けて、ご主人様となられました進一様にご奉仕活動をさせていただきます。何なりとお申し付けくださいませ…… 」
 大きな瞳を開けたアダルトドール・メグミが声を発した。人間と寸分変わらない言葉使い。
「尚ちゃん、これ、どういうこと? まるで、人間みたいだよ」
「フフ、進ちゃん、驚いた? あたしの大学で勉強した成果が完成したの。4年も掛かったわ」
「尚ちゃん、東大の電子工学科だったよね? 」
 進一は尚子が語った夢を思い出した。遠い昔に聞いた記憶がよみがえった。生活を楽しくしてくれるものをつくりたいな。尚子はそんなことを言っていた。
「あたしが担当したのはロボットの頭脳に当たるAIが主で、アフターファイブで性器の部分よ。すでに、入学したときには体のベース研究は完成していたけど、動きがぎこちなかったの。大学在学中に学校とは独自にここで母と二人で開発していたのよ」

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