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蜃気楼の女

第8章 蜃気楼へのゲート

 ハンドルを握るナルミは安田の股間に片手を伸ばして添えた。
「ああ、まだ、固いの? さっきのあなたの力強いジュニアはわたしを錯乱状態にした。そんなの初めてだった。思い出すだけで、また、ここがぬれてきたわ…… 」
 ナルミの話によれば、安田を誘拐した真の目的が、ナルミとセックスの相手を毎日させるためのようだ。そのために、日本政府や民間組織にまで働きかけ今日に至ったようだ。そんなセックスのために安田を拉致したのか? 信じられなかった。これから、いくらナルミがそそるような姿態をしていても、彼女ととても毎日セックスして暮らす気にはなれない。外務省の政府高官まで務めている自分がナルミのペットに成り下がる。失望、絶望、まるで地獄だ。
「あら、もう、目的地のゲートに到着したわ」
 平然と話すナルミをにらんでいた安田は、眼を前方に向けた。暗黒の中でゲートと言われる球体のような光がぼんやりとした白い光を放っていた。ゲートがどんな形なのか安田には識別できない。先ほど見た球体は、常に形を変えているように見える。球体だったものがあった空間が、時々ゆがんで縦に長くなったり、横に長くなったり、常に光が膨張したり、収縮したり、形が定まっていない。こんな物体を今まで見たことがない。
「ナルミ、あの光るものは何? 」

 安田は科学で説明が不可能、摩か不可思議なエリアがこの地球上に存在することに信じられない気持ちだった。しかし、この怪現象を目の当たりにして、安田の概念が180度変化した。ゲートに近づくにつれて、減速したジムニーは、ゲートの発光する光に包まれた。ジムニーは吸収されるかのように光の中心に向かって誘導されているようだ。ナルミはエンジンを止めた。静寂がジムニーを覆った。船に乗ったようなゆらゆらした動きに変わった。安田は誠実、勤勉に外務省に勤務し、実績を積んできた。今、正体の知れない組織に拉致されて、自分の身の保証は分からない。この組織に、政府高官が少しずつ拉致され、この得体の知れない組織に、日本政府は取り込まれていくのであろうか? 安田に不安と絶望が去来した。
 安田たちは10分ほど光の領域を過ぎ、やがて、揺れが全くない状態になり、周囲から光が消えていった。そう思ったのは安田の勘違いで、光を長く直視したため、安田は視力を失っていたのだ。

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