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蜃気楼の女

第1章 再会

 東京都未成年者に対する淫行条例違反で逮捕される元好青年、報道を何度脳裏に描いたことであろう。この子も、山野櫻子同様、児玉にとって、魔性の女だ。児玉はあったこともない山野櫻子の名前をこのときから知っていた。それも、不思議な記憶で気になっていたことであるが、それ以外、櫻子に関する記憶がない。

「ほら、尚子の汗なんて、全然平気さ」
 児玉は尚子の背中に腕を回すと抱きしめた。尚子も既に汗を全身にかいていた。児玉は尚子の柔らかな胸の膨らみと体の熱を感じた。
「進ちゃん、また、尚子を抱きしめてくれて、嬉しいー このままずっと、このままね…… お互いの汗をピチャピチャくっつけ合おうね…… 」
 そう言いながら尚子が児玉の胸に、汗だらけの額を甘えるようにこすりつけてきた。尚子のあるときは甘えた少女のように振る舞う仕草に児玉は理性を失って興奮する。そのまま、本能に任せて尚子を抱きしめていたくなる。尚子の背中に回していた腕を急いで解くと、尚子の肩に手を置いた。尚子は児玉の胸に顔を埋めたまま動かない。児玉もこのまま尚子を抱きしめていたかった。しかし、意を決して、児玉の胸から尚子の顎を右手でつかみ、顔を上げさせた。驚いた尚子は児玉をじっと見つめた。児玉は吸い寄せられるように尚子の唇に自分の唇を重ねた。
「アッ 」
 児玉はついに欲望を抑えられなかった。
「嬉しい、やっと、振り向いてくれたね、進ちゃん、あたし、今、能力を使わなかったよ…… 」
 尚子は嬉しくてもう爆発しそうだった。尚子は児玉の胸におでこを強く押しつけた。
「お願い、このまま…… このまま…… 」
 児玉は涙を流す尚子をどうして良いか分からないでいたが、それでも、気になった尚子の言葉を反芻した。君の言う、あたしの能力って、何なの? 全く、訳の分からない子だ。でも、児玉はそういう尚子が、どうしょうもなく愛おしくて抱きしめていたい。

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