テキストサイズ

蜃気楼の女

第1章 再会

「肉体関係にはなっていません! 」
 尚子は考えている振りをしている。これは絶対、次の策を練っていると児玉は嫌な予感を感じた。
「え? でも、どういう風に誤解されたら困るの? 尚子、まだ、分かんないわ…… 」
 尚子はまた悲しそうな顔をして下を向いた。もう、何でお父さんは僕に頼むの? と児玉は心底迷惑に思った。尚子は、突然、児玉に顔を向けた。いつもの明るい顔になっている。おお、復活した、と児玉は喜んだ。この子の笑顔は最高だった。しかし、この子は言ったことを理解したのだろうか、児玉はいつも不安になる。
「あ、お、思い出しちゃったー。今朝、お父様が最近、進ちゃんの顔を見ていないから、たまには遊びに来るようにって、言ってました。いつ? 暇かしら? まあ、あたしは進ちゃんにいつも会ってるし…… いつでもいいけど、あたしがいるときに、遊びに来て欲しいなー ね? 進ちゃんも、あたしがいたほうが嬉しいでしょ? また、あたしの部屋でいちゃいちゃしちゃおうね」
 尚子が目を丸くして楽しそうに児玉の腕に自分の腕を絡ませた。
「ほら、直ぐ、こうやって、肉体関係でしょ? あたしたち、男女の関係ってことで、これからも大人の関係でいいよね? 」
 人なつこく話してくる愛くるしい尚子の顔を見ていると、児玉はついつい可愛くて抱きしめてあげたくなる衝動に駆られてしまう。いけない、いけない、理性が、自制心が飛びそうだ。そのたびに、頭を振り、邪念を追い払う。尚子は会わなかった大学4年の間にすっかり女性らしさを増していた。児玉は厚生労働省に入庁し、地方機関に赴任していたが、この4月、東京勤務になった。しかし、久しぶりに会うというのに、尚子は児玉に対しては幼い頃から甘えていた。甘えた声で児玉にいつも体をくっつけて来た。でも、尚子はベチャパイだったような記憶しかない。だから、豊乳好きの児玉が尚子を抱くわけがない、と思っている。時々フラッシュバックする尚子との性交は夢としか思えない。でも、形のいいバストになる兆候はあった。乳首が固くとがっていた。何故、その感触があるのか? 恋愛感情を抱く前に、あのときも尚子に手を出しそうだった。しかし、踏ん張った、偉いぞ、進一、これは師弟愛だぞ、人の道を踏み外してはいけない。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ