テキストサイズ

蜃気楼の女

第15章 安田尚子 少女期

「進ちゃん…… 」
 尚子は進一に対し、自分の能力を使って様子を伺った。もっぱら能力を進一を観察するために使っていたが、進一を操作できることが分かった。ここから進一に声を掛けることができる。ちょっと思いを強くすると、進一には尚子の声が聞こえるようである。声が届くのか、実験することにした。
「進ちゃん、勉強、どう? 」
 机に向かってペンを走らせていた進一は、動きを止めて、天井を見上げてから、後ろを振り返った。
「進ちゃん、尚子よ…… 分かる? ねえ、しよう…… 気持ちのいいこと、しよ…… 」
 進一の両手が自分の性器を押さえつけている。この声掛けに反応したようだ。先日、尚子は進一に、尚子の全身写真を机の上に置くようお願いした。
「勉強があって、あたしと会えないなら、あたしを忘れないようにこれを机の上に置いてね、絶対よ! 」
 尚子は進一の部屋に上がると、用意していた自分の写真を、進一の机の上に置いた。
「時々、置いているか確認しに見に来るからね。いい、分かった? 」
 尚子は強い口調で言う。そして、にっこり白い歯を見せて小悪魔のように笑って進一の顔を見つめながら、顔を進一の数センチまで近づけて、静止する。そのまま、進一にキスしたくなった。それをぐっとこらえて、言った。
「いい? 写真しまったら、許さない! 」
 尚子はクリームイエローのワンピースを着たせいそ、清らかな少女というイメージを感じさせる渾身の一枚を、わざわざ、駅前の写真館で時間を掛けて撮ってきた。スカートの丈は膝から20セントも上げて自分の色気をアピールさせた。健康的な少女がはじけそうで、若さに輝いた写真である。アイドルのブロマイド写真のようである。写真店で完成した写真を見た尚子はにっこり微笑んだ。
「進ちゃん、これ、見たらどんな反応するかしら? とっても、楽しみ…… 」
 尚子はその写真を持って、児玉邸に走った。
 尚子は机の上の写真に写っている尚子から話し掛けているかのように、進一の脳に向かって念を送った。
「おおーい、勉強してますか? 息抜きしましょう? 」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ