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蜃気楼の女

第18章 2021年3月

 児玉進一は大学を卒業すると、厚生労働省総務課に入所して大阪の梅田出張所で食品の管理を担当していた。4年目の勤務になった年、異例の内示が出て、4月から東京へ厚生労働省諜報室長に異例の早さで昇格して異動することになった。上司、同僚も驚く抜擢であった。進一は特別に何をしたわけでもなく、淡々と毎日勤務していた。だから、周囲も何の力が働いたのか、それとも、左遷なのか? どうにも突然のことで分からない人事異動であった。とにかく、室長という肩書きが付いての異動だけに、皆、祝福してくれた。そして、同じ時期、途中入所の職員があることも分かった。その配属先の諜報室職員内示リストを見てびっくりした。異動者リストの中に、新卒採用として安田尚子の名前が載っていた。進一は梅田に配属された4年間、東京の実家には正月くらいしか戻らなかった。東京に行ったとき、尚子に会うのを避けていた。進一は尚子と関わるのが怖かった。尚子と一緒にいると、自分が現実から異次元の世界に浮遊して別世界にいるような感覚になった。尚子に対し妄想してしまうことが怖かった。純真無垢で清楚な尚子を乱暴に犯してしまう。その行為をすることで、まさに夢心地で、どうすることもできないくらいの高揚感で満たされた。現実から逃避しているかのごとく、現実離れした幻想の中にいた。妄想癖があると思い悩んでいた進一だが、実際、進一の妄想などではなく、尚子が超能力を使って、妄想の世界に進一を引き込んでいた。つまり、進一自身が妄想をしたわけではなく、尚子の妄想のおかずにされていたに過ぎない。それが真実であるが、そんな、ありえないこと、進一には思いもよらない。そうして、尚子の超能力は現実に起こっていない仮想のイメージを相手の脳に働きかけることができた。東京に住む尚子は、大阪にいる進一があたふたする姿が楽しくて、かわいくて嬉しくなった。
「進ちゃん、ほんと、かわいいーね、尚子、大好きよ、進ちゃん、大好き、だから、進ちゃんも尚子を好きになってね…… 」
 真面目な進一が、そういうエロチックな顔をする尚子の顔をうっとりした顔をしてメロメロ状態になっている姿を東京から透視しては喜んだ。尚子はまさに魔性の女、そして、変態だった。

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